
本書の主張はただ一つ

宇宙論や恐竜研究は、研究者の専門によってまったく異なる切り口から語られるのが面白い分野です。本書『恐竜はすごい、鳥はもっとすごい』もその一冊。神経化学・抗老化学を専門とする佐藤拓巳さんが、「恐竜」と「鳥」を生理学的な視点から読み解いています。
本書の主張は非常にシンプルです。
「恐竜(獣脚類)はとてつもなくすごい!」です(笑)
では何がすごいのか。それは「圧倒的な運動能力」です。その秘密は、哺乳類にはない二つの特徴にあります。
ひとつは高効率なエネルギー産生を可能にする「スーパーミトコンドリア」。もうひとつは空気が一方向に流れることで極めて効率のよい呼吸を実現する「気嚢システム」です。そして驚くべきことに、これらの特徴は現代の鳥類にそのまま受け継がれています。
低酸素環境が生んだ“最強の身体”

では、なぜ恐竜はこのような能力を手に入れたのでしょうか。鍵となるのは、地球史上でも過酷な環境のひとつ――低酸素時代です。哺乳類にとって低酸素環境は致命的です。
たとえばエベレストの標高8000m付近では、酸素濃度は約7%。熟練の登山家でさえ幻覚を見ることがあり、「死の世界」と呼ばれます。しかし、そのはるか上空を、アネハヅルは群れで悠々と飛び越えていきます。この差こそが、哺乳類と鳥類の決定的な違いです。
さらにさかのぼると、ペルム紀末の大量絶滅では酸素濃度は約10%(現在の半分程度)まで低下し、地球史上最大の95%以上の生物種が絶滅しました。加えて二酸化炭素濃度も高く、極めて過酷な環境だったと考えられています。
こうした地獄のような環境下で、獣脚類の祖先は強烈な進化圧を受け、異常なスピードで進化していきました。そして三畳紀以降、地球の覇権を握ることになります。
恐竜から鳥へ ― 進化の3つの道

その後、ジュラ紀に入り酸素濃度が回復すると、恐竜たちは大きく三つの方向へ進化します。
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持ち前のスピードをさらに追求する系統
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ティラノサウルスのように巨大化する系統
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そして――飛行能力を獲得する系統
この三つ目が、現在の鳥類へとつながっていきます。重要なのは、現代の科学ではすでに「鳥は恐竜である」と考えられている点です。もはや「恐竜」と「鳥」の境界は、かなり曖昧になっています。
恐竜観を変えた「恐竜ルネッサンス」
本書より引用
かつて恐竜は、「鈍重で冷血なトカゲ」のような存在だと考えられていました。ゴジラのように尾を引きずり、のろのろと歩く巨大生物――そんなイメージです。
しかし、この認識は大きく覆されます。研究者ジョン・オストロムと、その弟子ロバート・バッカーによって、恐竜は高い運動能力を持つ活動的な生物として再評価されました。いわゆる「恐竜ルネッサンス」です。
さらに映画『ジュラシック・パーク』によって、そのイメージは一般にも広まりました。ただし現在では、作中に登場したラプトルにも(オストロムが指摘していたように)羽毛が生えていたと考えられています。すごい先見性だ・・・!
鳥はなぜ長生きなのか
本書のもう一つの興味深い視点は「寿命」です。鳥は非常に高い運動能力を持ちながら、同じ体重の哺乳類に比べてはるかに長生きします。
その理由として、スーパーミトコンドリアによって活性酸素の発生が抑えられ、老化が進みにくい可能性が指摘されています。「よく動くほど老化する」という常識とは、まったく逆の世界です。
感想:科学を“物語”として読ませる力

内容も非常に面白いのですが、特に印象に残ったのは導入部分です。「もしタイムマシンで三畳紀に行ったらどうなるか?」という問いから始まり、低酸素と高温の環境でまともに動けず、最終的にはコエロフィシス(表紙の恐竜)に襲われる――そんな描写はまるで小説のようで、一気に引き込まれました。
また、あとがきで著者が中学時代に読んだ本に衝撃を受けたというエピソードも印象的でした。僕自身も、小学生の頃に『空想科学読本』を読んで科学への興味を強く持った記憶があります。こうした「知的なワクワク」は、その後の進路や興味を大きく左右します。
今家庭教師で教えている小中学生の生徒たちにも、こうした体験をしてほしいなぁ・・・そんなことを感じさせてくれる一冊でした。
最後までご覧いただきありがとうございました。

